ポール・オースター作品を初めて手にとってみました。
結論から言うと、「すごく良かった」です。
ストーリーはこんな感じです。
ダニエル・クインという推理作家に、「探偵ポール・オースター」宛ての間違い電話が掛かってくる。
そこで、クインは「探偵ポール・オースター」を装って、依頼された事件を請け負ってしまう、というミステリっぽい展開です。
でもミステリ作品と思って読むとおそらくガッカリします。おそらく。
というよりも、正直言ってストーリーはそんなに重要ではない気がします。
捜査の進行と共に壊れていくクインと世界観がみどころなのかな、と思います。
あと、文体がやっぱり良いです。頻繁に言われていることですが、文章に透明感があります。
ところで、石之介は「作者の名前が作中人物として出てくる」という手法があまり好きではないのですが(結構一般的な手法ですが)、この作品でも「探偵ポール・オースター」という著者名と同じ人物が登場します。
この作品でもいきなりそういう場面から始まるので、ちょっとゲンナリしつつも読み進めると、どうやらちょっと毛色が違いそう。
ちゃんと狙いがあるのだな、と。
作中にドン・キホーテは誰が書いたのか、みたいな議論が記述されてますし、主人公であるクインが推理作家でのペンネール:ウィリアム・ウィルソンの立場や、自作品の主人公の私立探偵:マックス・ワークの立場を取ったり「探偵ポール・オースター」を名乗ってみたりしますし、事件の依頼者であるスティルマンも複数人出て来ますしね。
メタフィクションですね。
印象的なシーンとしては、ピーター・スティルマン初登場時の一人語りです。
すこし妄想が入った一人語りが数ページの間、途切れることなく続くんです。
そしてその話に対して誰も突っ込んだりせず、(たぶん)黙って聞いている、という状況。
この話、いつまで続くんだ!というような不安感。
好きです。こういう感覚を感じさせてくる文章。
でも、終わった後に「たくさんしゃべったら、いつの間にかこんな時間になっちゃった」みたいなことを言い出した時には笑っちゃいましたが。
最終的にはクインはちょっとアタマが変な感じになるのですが、その段階になってくると地の文も必要以上に緻密で神経質な描写が繰り返されます。
クインの意識の奔流を読者にも体験させてくれるのですよ。
いや、すごく良いです。
これこそ「読むこと」の楽しみです。
ストーリーを追う為だけに小説を読んでるわけではありませんからねー、っと。
お気に入り度=☆☆☆☆★
でも、柴田元幸・訳がとても良い、とか英語でも読みやすい、とかそんなこと言われているので、そちらも読みたいですね。