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予備知識なく読むのがオススメ。『アルファオメガ』感想

4043470061 ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)
角川書店 2004-03

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 図書館にふと立ち寄った際ふと目に付いた、異彩を放っていたので思わず借りてしまいました。

 というわけで何の前知識もなく読んだのですが、たいへん面白かった!

 興奮冷めやらず、だったため、他の人はどんな感想を持っているだろうと、書評ページを検索しまくりました。
 すると軽くネタバレしているページも多かったので、先に本書を読んでよかったな、と。

 私にとって何がネタバレかというと、この作品、実はコメディ要素が満載なのです。

 導入は、飛行機事故被害者のグロテスクな描写で始まり、その後はガラリと舞台が変わり人間とは全く違う概念の宇宙生命体『一族』のひとり『ガ』による切ない世界が描かれます。

 ここまで読んだときは、壮大で切ない物語を期待して読み進めていたのです。

 ところが、諸星はやとが『ガ』と合体したあたりから様子が変わりました。
「ジョワッ」とか「ヘアッ」とか言い出したんです。
 ウルトラマンじゃん! これ!
 大爆笑してしまいました。

 おそらく、そういう展開になるとは知らなかっただけに、衝撃的でした。
 主人公の名字が『諸星』である時点で気付くべきでした。

 他にもjojoネタやたぶん寄生獣を元にしたんだろうな、と思われるネタも満載。
 あと、敵方の名前もふざけてるとしか思えないセンス。
 マイケル黒田とかリチャード青木とか。

 とはいえ一方で、そういう『超人』や怪物たちが暴れることによって、無残に殺されていく人間たちをグロテスクに表現していたり。
 主人公以外で、唯一のヒーロー唐松さんも、主人公が発した放射能?を浴びたせいで、その後の人生が大変になったような描写もあり。

 また、最後の最後で『ガ』の本当の名前が明かされた時に「あ! アレを書いた人か!」と気づきました。
 元々ホラー+SFの人なのね。

 そのように大変にふざけていた物語ですが、最後のシーンは、大変切なく美しく終わって行きます。

 おそらく元ネタを全く知らない人が読んでも楽しめると思います。
(まあ、「ウルトラマン」や「JOJO」を知らない人が、本書を手に取るとは思いませんが)

 冒頭の『一族』の部分だけでも読む価値有りです。
 この部分はちょっとSF色が強いですが。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆

 文体に斬新さはないものの、過不足ない表現によるエンターテイメントでした。
 変に情緒があふれ過ぎてる文章より、よっぽど巧いし、気持ちよい文体です。
 他の作品も読むことにします。

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楽しんだけど、是と言えない。『女王様と私』感想

4048736280 女王様と私
角川書店 2005-08-31

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 どんでん返しモノで『物語に裏切られたい』という気持ちが沸いてきて、「ならば歌野 晶午作品を読もう」なんて本書を手に取りました。
 表紙も可愛かったし。

 歌野 晶午作品を読む時は、著者本人がそう望んでいるかどうかは別として、そういう期待を抱かざるを得ません。

 ストーリーはざっくり言うと、
 オタクである主人公が美少女に翻弄されているうちに、大変なことに巻き込まれていく、
 という、ちょっとベタなストーリーなのです。

 が、随所に期待していた『裏切り』が散りばめられており、飽きさせません。

 だったはずなのですが……。

=========以下、重大なネタバレ含みます。=========

 ネット上でもラストについては、賛否両論(否が多い)ありましたが、自分も是とは言えません。

 実はこの物語の大部分は主人公の妄想なのです。
 現実と現実に挟まれた妄想。
 少女たちとの楽しいやりとりや、ヒーロー的行動も全て妄想なのでした。

 夢オチみたいなものですが、でも、私はそのこと自体に否定的になっているわけではありません。

 私が気になっているのは、その妄想の部分で決着がついていない、という点なのです。
 正確に言うと『謎』という点では決着は付いているのですが、主人公がピンチを切り抜けていないんです。
 そこが非常に納得いかなかったのです。

『全ては作り話でした』というオチを持ってくるなら、作り話の部分は完全に決着をつけるべきだと思うのですよ。
 そうしないと、本当に「何でもアリ」になっちゃいますから。
 そもそも小説なんて妄想そのものではありますが、だからこそ決着が必要なのです。

 お気に入り度=☆☆☆

 否定的なことを書いてしまいましたが、リーダビリティは高いし、登場人物たちのやり取りを楽んだり萌えたり(?)できると思います。
 真犯人の母親の言い草とか、ひどすぎて最高です。

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底知れぬド変態・吉村萬壱。『ヤイトスエッド』感想

4062153734 ヤイトスエッド
講談社 2009-04-25

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 読んでてイヤな気分になる作家ナンバーワンの吉村 萬壱さんの新作を発見。
 中身をチェックせずに手に取ってみました。

 今回もクチュクチュバーンバーストゾーンのように人々が無惨に虐殺される話かと思いきや、違いました。
 SF的な設定もなし。

 ですが、相変わらずイヤな気分になる要素は満載です。
 6つの短編から本書は成り立っているのですが、どれもこれも劣情で満たされています。
 しかも、純愛に伴う美しいエロティシズムでもないし、かといって動物的な力強いエロでもないのです。
 なんというか、人間の薄汚い部分と結合した気持ち悪いエロで満載なのです。

『イナセ一戸建て』
 ゲイ的な話です。憧れの作家が近所に引っ越して来た&彼女と別れたのをきっかけにゲイな妄想に取り憑かれてしまいます。
 最後の駅前のシーンが、なぜかムダにカッコいい。

『B39』『B39ーⅡ』
 工場で働く男女がエロい事件ばっかり起こす話。
 非常に閉塞感を感じる世界観です。
 でも、最後に急に、何コレ的な展開があってビックリです。何コレ。
 続きが気になって仕方ないのですが、なんと『B39−Ⅲ』もあるみたいです。
 でも、蔵入りになったそうで。なぜ!?
 非常に残念です。

『鹿の目』
 惚れた女性を勝手に神格化してしまうが、あるコトがきっかけでものすごくガッカリする話
 その「あるコト」がなんだか可愛い、と思います、ボクは。

『ヤイトスエッド』
 ルールを守るために生きているような主人公が、同僚の悪意ある策略の標的にされたのをきっかけに、そのカタい性格に拍車がかかる話。
 でも、本書の中で1番救いがあって、気持ち悪くない話かも。

『不浄道』
 潔癖症の主人公が、ある事件(これも気持ち悪い!をきっかけにきたないものに惹かれていくはなし。
 実害?が1番少ないけど、ほんとイヤな話。

 
 ド変態な作品が多いけれど、文体は読みやすく、時には饒舌さが「森見 登美彦」と似たようなおかしみを感じさせることも。

 とか思ってたら、こんなページを発見。

 いやー、吉村さんは心底ド変態なんだな。感動しました。

 お気に入り度=☆☆☆

 直接的な表現がない箇所でも、性的な隠喩で満たされてたり、ちょっとエロ要素でおなかいっぱい。
 次回作が出たら必ず読むでしょうけど。

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忘れることは無くなることより絶望的だと思う。『最後の物たちの国で』感想

4560071314 最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
Paul Auster 柴田 元幸
白水社 1999-07

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 ポール・オースターの作品は、手に取ってみたくなるタイトルが多いですよね。
 いったいどんな作品なんだろうかと思わせるような。
 『ティンブクトゥ』や『偶然の音楽 (新潮文庫)』や。
 
 そんな中で今回は『最後の物たちの国で』を読んでみました。
 
 舞台は名前が示されない、荒涼とした国。
 殺人や略奪が日常として行われており、次の瞬間に生きていられるかどうかわからない、という程の殺伐した世界。
 
 そんな場所での、主人公:アンナ・ブルームの暮らしが、手記の形で綴られます。
 
「自殺するのが怖いので、代わりに自分を殺してくれる」という商売が成り立つほど死んだ方がましだというほど絶望に満ちた世界にいるのに、アンナは他人を救おうと試みたり、幸せな未来を築こうとしてみたりなど、なかなかのタフネスを見せてくれます。
 それらの行為は感情を抑えつつ淡々と綴られており、状況に対するあきらめを抱きつつも、それでも一歩でも先に進んでみせようという矜持を感じさせて、グッときました。
 
 こんな世界は現代日本に生きる私たちにとっては、異世界であると思いつつも、実際にこんな絶望感に満ちた時代・国はいくらでもあるようにも感じます。
 
 現実と違うところは、「失われた物は忘却される」という点。
 現実では例えば目の前の「えんぴつ」が手元からなくなったからといって、「えんぴつ」という物自体を忘れる訳ではないですよね。「えんぴつ? 何それ?」というような。
 
 人間が他の生き物と違うのは、記憶や記録によって「物が実際になくても」後世に物を残すことが出来る、という点だと思うのですが、この世界では”ある”物しか残っていかないワケですよ。
 これは恐ろしいですよ。
 未来は近眼的な世界になっていくしかない。
 
 この作品そのものである主人公の手記も「残された物」であるわけですが、この手記が失われたら、主人公も忘却され失われるのかもしれません。
 
 お気に入り度=☆☆☆☆☆
 
 見事なディストピアもの。
 同じく死に満ちた、人がグチャグチャと死んでいく吉村萬壱的な世界とは別の絶望感があります。
 でも、読後感はなぜかさわやか。
 もう一回読もう。

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色々詰めようとしすぎだと思う。『食堂かたつむり』感想

4591100634 食堂かたつむり
小川 糸
ポプラ社 2008-01

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 発売から1年経った今でも書店で平積みされたりしているし、表紙もタイトルもセンスを感じる作品なので、かなり期待感を持って手にしてみました。
 
 しかしながら、あまりこの作品を肯定的に捉えることが出来ませんでした。
 
 この作品には色々な素材が詰め込まれています。
 
  インド人の恋人に逃げらたのがきっかけで、声を失う主人公。
  その一方で、自然に囲まれた故郷でオープンした小さい食堂。
  1日1組限定のお客さんたちの人間模様。
  確執のある母とペットの豚との生活。
  食べることとは切り離せない生きるということと死ぬということについて。
  精密な料理の描写。
 
 一見「良さそうな素材」がたっぷりのこの作品ですが、正直言って全てを活かしきれているとは言い難いです。
 素材たちの使い方が唐突で、統一感がないというかリンクされていないというか。

 料理の描写はかなり良くて「食べたい!」と思わせるので「恋人に振られたけど、今食堂で頑張ってます」というような話でも十分楽しめるのに、人間の負の部分を表現しようと思われるエピソードが中途半端に混じって来て、世界に入り込みづらいです。
 
 もうひとつストーリーの背骨を構成する出生にまつわる話も、とても納得できるものではありませんし。
(それが「おかん」の作り話だとしても、それ意外に真実をほのめかす描写も無いので、やはり納得できない)
 
 小川糸さんは、幸せで、良い人なんだと思う。
 でも、それは小説家にとっては、褒め言葉にはなり得るかどうか。
 理解できないレベルの悪意を覗き込めない、そんな体質なんだという印象です。
 いや、それはそれでいいんです。
 幸せに埋め尽くされた作品っていうのも面白い物はたくさんあります。
 でも、中途半端なリアリズムは、止めておいた方が良いと思います。
 
 お気に入り度=☆☆
 
 とはいえ、これはデビュー作らしいので、他の作品も読んでみたいと思います。

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理系男子好きにもオススメ。『ショコラティエの勲章』感想

4488017509 ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)
上田 早夕里
東京創元社 2008-03

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 食べ物に関する小説を読みたいと思ってたら目に飛び込んできた一冊。
火星ダーク・バラード』などの著作で、ややハードめのSF作家という印象があった上田 早夕里さんの著作ということで少し驚きました。

 ストーリーは、父が営む和菓子店で働く絢部あかりの、ちょっとミステリ要素のある日常を描く短編集となっています。

 実際は絢部あかりは主人公というより狂言回しの役割で、真の主人公は近所の人気ショコラトリー(チョコレート屋さん?)『ショコラ・ド・ルイ』のショコラティエ・長峰、なのかな。
 タイトルも『ショコラティエの勲章』ですしね。

 以下の六話のショートストーリーから構成されています。

 第一話 鏡の声
 第二話 七番目のフェーヴ
 第三話 月人壮士
 第四話 約束
 第五話 夢のチョコレートハウス
 第六話 ショコラティエの勲章

 私が好きだったのは、第1話目ですね。
『ショコラ・ド・ルイ』で、女子高生たちが万引きしたのを見た、と一人の女性が騒ぎだすのだが……。という話です。
 この話は、どの登場人物にも少し毒気があって印象的でした。

 キャラクターに関して言うと、主人公・あかりは若い女性でありながら落ち着いた、というか少し冷めた目線を持っているのが、作品としては好印象。
 題材がチョコレートなので、はしゃぎすぎな女の子が主人公なのかな、と読む前は思っていたので良い意味で裏切られました。

 ショコラティエ・長峰も、あかりと似た雰囲気を持っています。
 常に冷静で、論理的思考を得意としていそう、という印象。
 とか思っていたら、実際にそういうバックボーンを持っている、ということがストーリー後半で明かされます。
(お菓子は理科の実験に似てるって言うし)

 ストーリーやキャラクターもさることながら、チョコレートや和菓子の描写が素晴らしいです。
 おいしそう!という感情を抑えられません。
 私は一般的な男子なので、それほどスイーツに関して詳しくなく、知らないお菓子用語に翻弄されましたが、
 読んだ後は、ひとつひとつ大事に食べたくなりますね。

 お気に入り度=☆☆☆☆

 続編がぜひ読みたいです。
 あかりと長峰の関係が、この作品だけだと微妙な距離感なのですよ。

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透明感のある文章の中で狂うということ。 『シティ・オブ・グラス』感想

4042664016 シティ・オヴ・グラス (角川文庫)
Paul Auster 山本 楡美子 郷原 宏
角川書店 1993-11

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 ポール・オースター作品を初めて手にとってみました。
 結論から言うと、「すごく良かった」です。

 ストーリーはこんな感じです。
 ダニエル・クインという推理作家に、「探偵ポール・オースター」宛ての間違い電話が掛かってくる。
 そこで、クインは「探偵ポール・オースター」を装って、依頼された事件を請け負ってしまう、というミステリっぽい展開です。
 
 でもミステリ作品と思って読むとおそらくガッカリします。おそらく。
 というよりも、正直言ってストーリーはそんなに重要ではない気がします。
 捜査の進行と共に壊れていくクインと世界観がみどころなのかな、と思います。

 あと、文体がやっぱり良いです。頻繁に言われていることですが、文章に透明感があります。

 ところで、石之介は「作者の名前が作中人物として出てくる」という手法があまり好きではないのですが(結構一般的な手法ですが)、この作品でも「探偵ポール・オースター」という著者名と同じ人物が登場します。
 この作品でもいきなりそういう場面から始まるので、ちょっとゲンナリしつつも読み進めると、どうやらちょっと毛色が違いそう。
 ちゃんと狙いがあるのだな、と。

 作中にドン・キホーテは誰が書いたのか、みたいな議論が記述されてますし、主人公であるクインが推理作家でのペンネール:ウィリアム・ウィルソンの立場や、自作品の主人公の私立探偵:マックス・ワークの立場を取ったり「探偵ポール・オースター」を名乗ってみたりしますし、事件の依頼者であるスティルマンも複数人出て来ますしね。
 メタフィクションですね。

 印象的なシーンとしては、ピーター・スティルマン初登場時の一人語りです。
 すこし妄想が入った一人語りが数ページの間、途切れることなく続くんです。
 そしてその話に対して誰も突っ込んだりせず、(たぶん)黙って聞いている、という状況。
 この話、いつまで続くんだ!というような不安感。
 好きです。こういう感覚を感じさせてくる文章。
 でも、終わった後に「たくさんしゃべったら、いつの間にかこんな時間になっちゃった」みたいなことを言い出した時には笑っちゃいましたが。

 最終的にはクインはちょっとアタマが変な感じになるのですが、その段階になってくると地の文も必要以上に緻密で神経質な描写が繰り返されます。
 クインの意識の奔流を読者にも体験させてくれるのですよ。
 いや、すごく良いです。
 これこそ「読むこと」の楽しみです。
 ストーリーを追う為だけに小説を読んでるわけではありませんからねー、っと。

 お気に入り度=☆☆☆☆★

 でも、柴田元幸・訳がとても良い、とか英語でも読みやすい、とかそんなこと言われているので、そちらも読みたいですね。

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力を持った狂人は止めることが出来ない。 『楽園への疾走』感想

4488016472 楽園への疾走 (海外文学セレクション)
増田 まもる
東京創元社 2006-04-22

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 読むの疲れた〜。
 グダグダしたディストピアものです。疲れます。
 
 環境保護活動という名で繰り広げられる、頭がグラグラするような南の島での生活。
 そこではドクター・バーバラという中年の女医さんが絶対的な権力を持つに至り、ついに始まる惨劇。

 このドクター・バーバラという人間はやっぱり登場した当初からちょっと頭のおかしい言動が多いんですよ。
 とはいえ、許容可能というか、まあその辺にいそうなレベルのおかしさではあります。
 
 ところが、南の島の生活が逼迫してくるのと連動してどんどん狂気が増していくんです。
 「こういう人が力を持つと危険なんじゃないか」と思わせる人っていますが、ドクター・バーバラもそんなタイプです。

 でも、その発言力・行動力からか周りの人間からは持ち上げられ、ドクター・バーバラをトップとした体制が確立されちゃいます。
 で、逃れられない惨劇に至るのです。

 正しいかどうかは別として「断言する人」というのは一定の力を持ちやすく、考えたくない人や疲れちゃった人なんかはそういう人の言うことを盲目的に信用してしまう。

 その危険性をドクター・バーバラとその他の人たちは体現しているんだと思います。
 
 また、この作品にはもう一人の主人公・ニールという青年がいるのですが、キャラクター配置を考えると、こういう人物にはノーマルな思想と視線を持たせて、読者に共感を感じさせる役割を担わせたりしそうなもんですが、そこはさすがバラード。
 ドクター・バーバラの次に変態なのはニールなんですね。

 熟女好きのマゾの変態なんです。
 あからさまではないんですけどね。

 お気に入り度=☆☆☆☆

 いやホント、なんだろう、この疲労感は。
 でも、読み切れていない感覚が残っています。
 
 いつか、また再読したいと思います。

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いとおしい不器用さ。 『冥王星パーティ』 感想

4104722030 冥王星パーティ
平山 瑞穂
新潮社 2007-03

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 予備知識ゼロで、何の気なしで手にしてみました。 
 
 始めは自意識過剰な高校生の一人称の語りで進むので、ナルシシズムあふれるちょっと痛い物語(著者近影もちょっとナルシストっぽい)かと思って、正直「失敗した」かなとか感じたのですが、そんなことはなかったです。
 面白かったです。
 
 ストーリーはこんなです。
 桜川衛は、ある日都築祥子をネット上で見かける。
 そのサイトで祥子はみだらな姿をさらしている。
 しかし、衛が知っている祥子はどちらかというと「きちんとした」女の子だったはず。
 この11年間に祥子が何があったのだろうか。

 上のような前フリがあって、祥子の高校時代から何があったのかを追っていく、という構成になっています。
 
 ☆☆☆以下、ネタバレあります。☆☆☆

 結局、祥子は男がらみになると、持ち合わせている賢明さを発揮できず、あまりヨロシクナイ男に引っかかってしまう性格なんですね。
 で、最終的に他人との距離の取り方が分からなくなって、妙なサイトを開設するに至る、という流れです。

 でも、そのサイトがきっかけで、衛と久しぶりに会うことになるのですが、ここのシーンがすごくイイです。

 かなり痛めつけられてきたはずの祥子が飄々としてるんですよね。
 弱音を吐くわけでもなく、虚勢を張るわけでもなく。
 ※ここでメソメソされたら、「このナルシシズム小説が!」とイライラしたはず。
 強くなった、というよりは受け入れた、という感じがさわやかなんです。

 特に印象的なシーンは255ページ。衛に例のサイトを指摘されるシーン。

 
「あっ、あれ! あー……見られちゃったか」
 祥子はぶっきらぼうな感じでそう言ってから、ナイフとフォークを置いて、目を閉じた。
「ヤバい。まだあったんだ……恥ずかしいな……どうしよう、超恥ずかしい」
~略~
 祥子はそう言って、顔の片面に垂れかかる前髪を片手でしきりとかき上げた。

 高校生の頃の祥子は、他人に対して壁を作るような女の子だったのですが、ここでは照れを見せてくれてカワイイんです。
 処女性を失った祥子が、若い頃には人に見せなかった羞じらいを見せる、というのが倒錯的が良いんですね。

 お気に入り度=☆☆☆☆★

 結局のところ、この物語はなんでもない普通の人のよくある恋愛遍歴のお話。でも楽しみました。
 平山瑞穂の他の作品も読みたくなりました。