いとおしい不器用さ。 『冥王星パーティ』 感想

4104722030 冥王星パーティ
平山 瑞穂
新潮社 2007-03

by G-Tools

 予備知識ゼロで、何の気なしで手にしてみました。 
 
 始めは自意識過剰な高校生の一人称の語りで進むので、ナルシシズムあふれるちょっと痛い物語(著者近影もちょっとナルシストっぽい)かと思って、正直「失敗した」かなとか感じたのですが、そんなことはなかったです。
 面白かったです。
 
 ストーリーはこんなです。
 桜川衛は、ある日都築祥子をネット上で見かける。
 そのサイトで祥子はみだらな姿をさらしている。
 しかし、衛が知っている祥子はどちらかというと「きちんとした」女の子だったはず。
 この11年間に祥子が何があったのだろうか。

 上のような前フリがあって、祥子の高校時代から何があったのかを追っていく、という構成になっています。
 
 ☆☆☆以下、ネタバレあります。☆☆☆

 結局、祥子は男がらみになると、持ち合わせている賢明さを発揮できず、あまりヨロシクナイ男に引っかかってしまう性格なんですね。
 で、最終的に他人との距離の取り方が分からなくなって、妙なサイトを開設するに至る、という流れです。

 でも、そのサイトがきっかけで、衛と久しぶりに会うことになるのですが、ここのシーンがすごくイイです。

 かなり痛めつけられてきたはずの祥子が飄々としてるんですよね。
 弱音を吐くわけでもなく、虚勢を張るわけでもなく。
 ※ここでメソメソされたら、「このナルシシズム小説が!」とイライラしたはず。
 強くなった、というよりは受け入れた、という感じがさわやかなんです。

 特に印象的なシーンは255ページ。衛に例のサイトを指摘されるシーン。

 
「あっ、あれ! あー……見られちゃったか」
 祥子はぶっきらぼうな感じでそう言ってから、ナイフとフォークを置いて、目を閉じた。
「ヤバい。まだあったんだ……恥ずかしいな……どうしよう、超恥ずかしい」
~略~
 祥子はそう言って、顔の片面に垂れかかる前髪を片手でしきりとかき上げた。

 高校生の頃の祥子は、他人に対して壁を作るような女の子だったのですが、ここでは照れを見せてくれてカワイイんです。
 処女性を失った祥子が、若い頃には人に見せなかった羞じらいを見せる、というのが倒錯的が良いんですね。

 お気に入り度=☆☆☆☆★

 結局のところ、この物語はなんでもない普通の人のよくある恋愛遍歴のお話。でも楽しみました。
 平山瑞穂の他の作品も読みたくなりました。

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