色々詰めようとしすぎだと思う。『食堂かたつむり』感想

4591100634 食堂かたつむり
小川 糸
ポプラ社 2008-01

by G-Tools

 
 発売から1年経った今でも書店で平積みされたりしているし、表紙もタイトルもセンスを感じる作品なので、かなり期待感を持って手にしてみました。
 
 しかしながら、あまりこの作品を肯定的に捉えることが出来ませんでした。
 
 この作品には色々な素材が詰め込まれています。
 
  インド人の恋人に逃げらたのがきっかけで、声を失う主人公。
  その一方で、自然に囲まれた故郷でオープンした小さい食堂。
  1日1組限定のお客さんたちの人間模様。
  確執のある母とペットの豚との生活。
  食べることとは切り離せない生きるということと死ぬということについて。
  精密な料理の描写。
 
 一見「良さそうな素材」がたっぷりのこの作品ですが、正直言って全てを活かしきれているとは言い難いです。
 素材たちの使い方が唐突で、統一感がないというかリンクされていないというか。

 料理の描写はかなり良くて「食べたい!」と思わせるので「恋人に振られたけど、今食堂で頑張ってます」というような話でも十分楽しめるのに、人間の負の部分を表現しようと思われるエピソードが中途半端に混じって来て、世界に入り込みづらいです。
 
 もうひとつストーリーの背骨を構成する出生にまつわる話も、とても納得できるものではありませんし。
(それが「おかん」の作り話だとしても、それ意外に真実をほのめかす描写も無いので、やはり納得できない)
 
 小川糸さんは、幸せで、良い人なんだと思う。
 でも、それは小説家にとっては、褒め言葉にはなり得るかどうか。
 理解できないレベルの悪意を覗き込めない、そんな体質なんだという印象です。
 いや、それはそれでいいんです。
 幸せに埋め尽くされた作品っていうのも面白い物はたくさんあります。
 でも、中途半端なリアリズムは、止めておいた方が良いと思います。
 
 お気に入り度=☆☆
 
 とはいえ、これはデビュー作らしいので、他の作品も読んでみたいと思います。

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