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包丁こわい 『黒い家』 感想

黒い家 (角川ホラー文庫) 黒い家 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介 

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 生命保険会社に勤める主人公は、ある理由から生命保険詐欺(実は殺人鬼)から命を狙われる、という話です。

 ストーリーに関してはストレートで、サプライズを与えてくれるようなものではありません。
 でも、怖くて、間違いなく面白いです。

 おかしい人が包丁を持っている、っていう状況って、こんなに怖いんですね。
 幽霊とか妖怪とかそういうスーパーナチュラル系の話よりずっと。
 実現可能性が高いし。
 
 で、この怖さとリーダビリティを引っ張ってるのは、貴志祐介の筆力の高さだと思います。
 的確な描写と、過不足ない専門知識に関する説明、と言った文章力に加えて、
 納得感のある登場人物たちの行動。
 (ただ、物語最後の方に登場する”被害者になるためだけに登場するキャラクター”(ホラー作品の宿命?)が
 主人公の命を救う大きなヒントを残すところは少しだけ不自然さを感じました。)
 
 この作品はずいぶん売れたし、映画にもなったしで、今さら言う必要もないですが、傑作です。
  
 お気に入り度=☆☆☆☆☆(5点満点中)
 
 貴志祐介を知った第一作ということで、満点です。 

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極上デスゲーム小説『クリムゾンの迷宮』 感想

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫) クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介 

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 石之介はデスゲームものをつい読んでしまいますが、その存在が嫌いです。
 テーマとして”死”を扱うと否が応でも緊迫感が生まれてしまいます。
 だからデスゲームものは著者に作家としての力が足りなかったとしも、ある程度面白くなってしまいます。
 そして、そこに寄りかかっている作家が存在しているという事実が嫌な理由のひとつめです。
 
 で、二つ目のデスゲーム嫌い、の理由。
 ”死”が作為的で、物語の展開として、死ぬや死なざるや、に収束されてしまう為に、読んでいてもサプライズを期待できないのです。
 でも、”死”そのものに含有される緊張につい読んでしまう。そんな読者になってしまう自分が嫌なのです。
 
 しかしながら、エンターテイメント作家の中でも高い文章力を持っている貴志祐介がデスゲームものを書いたとあっては読まないわけには行きません。
 本筋であるデスゲーム部分以外にも様々な謎解きも存在し、舞台も面白い。

  火星の迷宮へようこそ。

 って言われちゃったら、まず”ここどこなの”的興味でひっぱられちゃいます。
 読んでいる時はとても面白く、結局ワンシッティングで読んでしまいました。
 でも、本を閉じたあと、胸に去来するモノがない。なんでだろう。

 スティーブン・キングの「死のロングウォーク」を読んだ時に感じた青春っぽい切なさとかもなかったし。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)
 否定的な意見を書いてしまいましたが、初見では間違いなく面白いです。
 オススメ度で言ったら☆☆☆☆☆です。

 ちなみに石之介が考えるデスゲームものの定義を以下に示します。
 1.あるルールに乗っ取ったゲームを行い、失敗・敗北へは”死”を与えられる。(死は生物的な死のほか、社会的な死を含んでもよい。多大な借金、生活に支障をきたす肉体の一部分の喪失など)
 2.あるルールはある人物・組織によって規定されたものである。
 3.ゲームの参加者はルールおよび主催者の存在を知っている。

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応援したくなる殺人犯 『青の炎』 感想

青の炎 (角川文庫) 青の炎 (角川文庫)
貴志 祐介 

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 倒叙ミステリです。主人公・秀一が、母や妹に暴力を振るう義理の父を殺そうと画策するお話です。
 倒叙モノというと、犯行がどのようにして捜査側の人間に暴かれるか、と言ったサスペンス性で読者を引っ張っていくものだと思うのですが、『青の炎』の場合、主人公の好感度が高いので、「もしかして最後までうまくいくんじゃないか。(殺人は絶対に絶対にしてはいけないことだけど)」という期待感で読み進めてしまいました。
 とはいえ、主人公をいくら応援したとしても、倒叙モノの宿命、ラストは切ないです。
 秀一は鵠沼の自宅から鎌倉の高校まで自転車で通学しているのですが、そのさわやかな行為はアリバイ作りや切ないラストの行動の伏線になってしまっているので、さらに切ないです。
 高校生活の中で起こる出来事なので、青春モノとして読んでも悪くないかもです。

 お気に入り度=☆☆☆(5点満点中)
 貴志 祐介作品じゃなくて、たとえば新人作家の2作目とかだったらもっと点数付けてたと思います。貴志 祐介に対して石之介は、尋常じゃない期待感をもってして読書に臨むので。

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もっと評価されて良い傑作 『天使の囀り』 感想

天使の囀り (角川ホラー文庫) 天使の囀り (角川ホラー文庫)
貴志 祐介 

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 これは傑作だと思います。
 初めて読んだ時は、登場人物たちの死は何によってもたらされているか、に対して納得した答えが読みたい、という願望からつい一晩で読み切ってしまいました。
 貴志祐介には『ISOLA』という作品があるので、超自然系の解決もあるなと思いつつも、そこに落ち着いてしまったら正直ガッカリだな、というところに、あの回答。いやー、ホント怖い。
 ”それ”が起こす現象も怖いし、”それ”自体も怖い(というより気持ち悪い)
 再読する時は「この行動はアレがアレしてるせいなのか、怖ッ」と楽しむことが出来ます。
 
 お気に入り度=☆☆☆☆☆(5点満点中)

 【以降、ネタバレありです】

 すべての災厄は人間に寄生する線虫の”恐怖を快感に変える”というひとつの能力?により引き起こされているわけですが、このトリックが物語をすごく芳醇なものにしていると、石之介は感動しています。
 話のとっかかりで、被害者は次々死んでいくので、読み始めは「ただ人を殺すだけの存在」を想像してしまいますが、実はその「存在」(線虫)の目的は「殺す」ことではないということが分かります。
 線虫がただ人を殺すだけの存在であれば、いかに感染を防ぐか、というだけの話になり凡百な作品になっていたと思います。
 でも、「死」は恐怖の対象になりやすいために、各人物の行き着く先が「死」になりがちなだけで、線虫の目的は宿主の「死」ではない。
 実際は「死」につながらない人間も存在する。
 しかし「死」に行き着かなかった人間は、さらなる過酷な運命を辿る、という展開。
 そしてエンディングでは、破滅しか生まなかった線虫の能力による少しの救い。
 いやー、堪能しました。

 個人的に好きなエピソードとしては、高梨が自殺するところとその遺作。
 この部分だけでも読んで欲しい。