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これ、ホラーじゃないの? 『かび』 感想

かび (小学館文庫) かび (小学館文庫)
山本 甲士 

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 痛快な作品が読みたい気分の時、見つけたのが本書『かび』。あらすじも以下のように紹介されています。

 ムカつく…。主婦が大企業相手に戦闘開始!
 幼稚園の送り迎えでの些細なトラブル、ねちっこく繰り返される姑のいやみ、ウェイトレスの尊大な態度……日々の怒りを呑み込んで、波風を立てずに生きてきた主婦・友希江。しかし勤務中に脳梗塞で倒れた夫を退職に追い込もうとする会社のやり口に、ついにキレた! 主婦一人、地元の大企業相手に、手段を選ばぬ報復を開始! 誰にでもある日常の不満から、闘争へと突入していく主婦の狂気を描き出す「巻き込まれ型小説」の傑作、ついに文庫化

 面白そう!
 普通の主婦が大企業と闘って、会心の勝利!スッキリ!
 って読み終わるはずだったのに……。
 
 痛快な気分にはなれませんでした。(面白かったけど)
 主人公がどんどん暗い考え方に染まっていく様子が丁寧に描かれています。
 これはホラー作品と言ってもよいくらいです。 
 
 でも、主人公がそうなってしまうのも仕方ないような世間の仕打ち。
 
 実際読んでいると、「あー、こんな人いそうだわー」って納得しながら、イライラしてくると思います。
 前半、主人公はそういう人たちの行動に我慢してしまうんですね。

 はやくこのイライラを解放してくれー、と思いながら読み進めてしまうんですが、あのラスト。

 やっぱり復讐心で行動するのは、みんなが切ない状況になってしまうんですね。

 でも本書を読むと、「騒音おばさん」みたいな人の作られ方がわかります。で、そういう人たちに少し寛容になれると思います。

 お気に入り度=☆☆☆

 面白かったんですが、やっぱり読後感が……。

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メイントリック以外も注目すべき 『ハサミ男』 感想

ハサミ男 (講談社文庫) ハサミ男 (講談社文庫)
殊能 将之 

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 言わずと知れた叙述系ミステリです。

 ストーリーは、猟奇殺人犯「ハサミ男」の第三の犯行と思われる事件が発生。だけど、第一発見者は「ハサミ男」本人。「ハサミ男」は自分の犯行を真似た真犯人を捜すことに。という話。

 「ハサミ男」側と捜査する側の2つでストーリーは進んで行きます。

 メイントリックの答えは書評などで明かされている通り、文中の様々な場面でほのめかされています。

 <以下、軽ーいネタバレがあります。>

 ハサミ男が◯◯だった、というのが明かされたときは正直ふーんってなもんだったけど(なんとなく気付かされたので)、捜査員が既に真犯人をマークしていた、ということが明かされるところには興奮しました。
 
 実は「ハサミ男が◯◯だった」という叙述トリックは読者から真犯人/捜査陣への視線をそらすために存在していて、だからこそ気付きやすいような伏線があからさまに張られているのだと思います。

 「ハサミ男」本人以外にも、この作品には様々な悪意が描かれています。

 例えば被害者・樽宮由紀子の描かれ方。ただのかわいそうな被害者ではなく、「ハサミ男」同様、サイコパス的な人だったのね。

 また、エンディング近く、真犯人の最後の行動&言葉のせいで、真の悪意は消えずに残ってしまうことになるんですよね。
 やけくそ的にも見えるこの行動は、もしかしたら真犯人の、社会に対する復讐かもしれないのかもしれませんね。

お気に入り度=☆☆☆☆

面白いのは確実です。でも、やっぱりシリアルキラーへの嫌悪感があるので、4点。

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春樹リミックス 『二〇〇二年のスロウ・ボート』 感想

二〇〇二年のスロウ・ボート (文春文庫 (ふ25-1))
古川日出男

 タイトルからも分かるのですが、本書は村上春樹著「中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)」を題材にしています。
 そのことは古川日出男本人が”解題”(”あとがき”ではなく、著者自らが解説しています)の中に書いています。

 古川日出男は作品ごとに文体を変えてくる人っていうイメージだったんですが、やっぱり根底にあるのは村上春樹&周辺カルチャーの文法だと思います。
 ”誤読”とか、村上春樹を想起させる言葉も出ますし、段落の終わりの一文が短い言葉で締めくくられていたり。

 とか言ってますけど、石之介は村上春樹をあまり読み込んでいない人間なので、この『二〇〇二年のスロウ・ボート』という作品をヘビーハルキストたちがどう読むか、というところに興味があります。誰かに熱く語られたいです。

 本書は、”僕”が出会って別れた3人の女の子について語るボーイミーツガールものですが、それぞれの場面に自らの体験を思い出させられることも多かったです。
(モリミー(森見 登美彦)作品を読むと自らの学生生活を思い出す、という話はよく聞く話ですが、『二〇〇二年のスロウ・ボート』でも同様に既視感を覚えることが出来ると思います。角度はまったく違いますけど)

 2人目の女の子に、裏切られながらも追う、でも追いきれない、みたいなシチュエーションの切なさは、誰しも体験してるかと思います。
 3人目の夢が破れると恋もやぶれる、というシチュエーションも切なくて良いですね。”社会人”になってしまうと、お金さえあれば良い、みたいな方にどうしても傾いてしまいますからね(泣きたくなってきた)。

 また、本書を読んでいる最中、石之介にごく個人的な奇跡(?)がありました。

 132ページの5行目。以下の部分に差し掛かった時。
 
 いたる。新木場駅だった。JR京葉線と地下鉄有楽町線が僕を誘いこもうと改札口(トラップ)を用意していた。

 この場面を読んでいた瞬間に石之介が乗っていた京葉線が新木場駅に着きました!
 どうでもいいですね。すいません。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)

 また読み返したい魅力があります。今回は4点。再読時は5点かも。

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理論と感情の混在 『愚者のエンドロール』 感想

愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫) 愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)
米澤 穂信

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 理論攻め、理論攻めで、最終的も論理的に解決!
と思いきや感情的にはその結論には納得できず、さらに秘められた真実の存在に気づく。

 と言う終盤の畳み掛けの気持ちよさが、米澤穂信作品をつい読みたくなる理由かもしれません。

 本書は米澤穂信のデビュー作『氷菓 (角川スニーカー文庫)』の続編で「古典部シリーズ」と呼ばれているシリーズの第2編になります。

 神山高校の文化祭でミステリ映画を撮影することにした2年F組。しかし撮影中に脚本担当が参加することが出来なくなってしまった。
 撮影済みの映像からこの映画のトリックを解明するように依頼される古典部であるが……、というお話。

 米澤穂信作品には他人を突き放すような性格のキャラクターが多く登場しますが、米澤穂信は、他人に対してものすごく感情移入する人である、と石之介は勝手に思っています。

 それは本書『愚者のエンドロール』のプロットや主人公・折木奉太郎のキャラクターに表れていると思います。

『愚者のエンドロール』は「事件が起きる→解決する→めでたしめでたし」の構造そのものをハコに入れて、メタ推理モノとして描かれているわけですが、
そのメタ推理はなぜ行われなければならなかったか、という点は感情移入なしでは成立しません。
(”女帝”や主人公たちを完全に冷徹なキャラクターならば、感情移入の部分なしでも話として成立するとは思いますが……、そんな話はあまり読みたくありません)

 結局『愚者のエンドロール』では事件らしい事件は起きていないんですよね。 
 人が死なないとつまらない、とかいう過激な人は、本作では納得しないかもしれません。
 でも、推理小説において「被害者になるために出てくる登場人物」が存在せざるを得ないことに対して、少しでも嫌悪感を抱いている人は読むべきかと思います。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)

 シリーズものは追っていく楽しみがありますね。次も読みます。

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切なさの予感 『氷菓』 感想

氷菓 (角川スニーカー文庫) 氷菓 (角川スニーカー文庫)
米澤 穂信 

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「物事を叙述する文章というものがほとんど自動的に不幸の予感(または気配)を呼び寄せることに気づいた」と保坂和志は書きあぐねている人のための小説入門の中で語っており、保坂和志はその「不幸の予感」を感じさせないように小説をかいているらしいけども、米澤穂信の場合、「不幸の予感」をむしろ丸出しにした文体が特徴であろうかと石之介は感じています。

  で、「氷菓」です。
 神山高校古典部に入部せざるをえなかった奉太郎。そこで出会う少女・千反田えるに論理的思考力?を見込まれた奉太郎は、えるの隠された過去を”思い出させる”ため、神山高校の歴史をひもといていく、というお話です。

 メイントリックについては、驚きは少ないもののその文体も相まって非常に切ない感情を呼び起こすものになっている、と思います。

 また、高校生活で男女がせっかく(?)出会っているのに、ボーイミーツガール的要素は意図的に排除されてるように感じます。匂わせといて否定するという方法で。
 ありきたりな要素はなくそうという試みなのかもしれません。
 
 ただ、米澤作品において、時折描かれるアニメ的お約束シーンが、どうも鼻についてしまうことがあります。好みの問題なのでそういったシーンがあるからこそ好きという人の気持ちもわかりますが、石之介はそこで作品への感情移入が薄くなってしまうのです。石之介が頭の中で描いている登場人物の身体的動作となんだかマッチしないからです。これは読み手のワガママなのかもしませんが。

 お気に入り度=☆☆☆

 このシリーズは続いているようなので、読み続けるつもりです。

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スタイリッシュな救い 『チルドレン』 感想

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) チルドレン (講談社文庫 (い111-1))
伊坂 幸太郎

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「自らの価値観にのみ従った行動をしているのに、結果的にその行動によって他人が救われている」という行動様式を持つキャラクターが登場するのが、伊坂作品の特徴だと石之介は考えています。

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)』の”河崎”や『ラッシュライフ (新潮文庫)』の”黒澤”などがそうです。
 本作の主人公である”陣内”もそのひとりだと思います。

 彼らはなぜか饒舌で対話者をケムに巻きながらも、その実、”答え”を語っている。
 ”答え”しか言わないから、意図がわからない。そのそも意図を伝える気がない。
 そして行動によって意図を伝える。
 そんな人たちなんです。

 実際こんな人たちがいたら、カッコいいな、と一瞬思ったけども、現実社会ではやっぱり語られた言葉しか他人には通じないから
行動だけで意図を示すってのは難しいと思うんですよね。

 とはいえ、伊坂作品には非リアリズムの部分に快感が潜んでいる(カカシ、とかね)ので、「リアリティがない」という批判は本末転倒だとは思いますが。

 で、『チルドレン』です。
 本作は5つの短編から構成されている物語です。

「バンク」
主人公”陣内”、その友人”鴨居”、盲目の男”永瀬”が銀行強盗に巻き込まれ、人質にされる。でもこの事件はなにかおかしいぞ……、という話。

「チルドレン」
12年後。家裁調査官になっている”陣内”とその後輩”武藤”が、万引き高校生”志朗”の指導にあたるが、”志朗”とその父親の関係に違和感を感じる、という話

「レトリーバー」
家裁調査官を目指して勉強中の”陣内”と”永瀬”、とその恋人”優子”が高架歩道で会話していると、周りにいる人々のようすがおかしい。一見無関係の人々がすわっているベンチから長時間動こうとしない。「世界は止まった」と”陣内”は言うが……。

「チルドレン2」
家裁調査官になっている”陣内”とその後輩”武藤”が、”アキラ”の指導にあたる。また同時に”大和”家の離婚調停も行う。予定調和的だけど、カッコいい話。

「イン」
公園のベンチに座る”永瀬”。そこに通りかかった”陣内”が話しかけてくるが、なにやら周囲と”陣内”の様子がおかしい。何が起きているのか?という話。

 それぞれは独立しているのですが、その中で共通して出てくるエピソードが”陣内”とその父親との関係。

 ”陣内”は彼の父親と仲が悪いのです。で、
 その関係をどうやって”解決”したか、というエピソードが各短編にちょこちょこっと出て来ます。

 5つの短編は時系列ではないので、「結局どうなったか」は早々に明かされるのですが、「どうやってそれを為したか」は最後に明かされたりして、このエピソードだけ追っても楽しい話です。

 あと、”永瀬”というキャラクターもちょっとカッコいいんですよね。
 目が見えない男なのですが、「目が見えない自分に対する世間」に対してすでに達観している感じと、その”永瀬”に対して無遠慮な”陣内”。
 
「おい、それは、本気で言ってるのか」
「盲目の男が言うと、本当っぽいだろ」

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)

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包丁こわい 『黒い家』 感想

黒い家 (角川ホラー文庫) 黒い家 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介 

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 生命保険会社に勤める主人公は、ある理由から生命保険詐欺(実は殺人鬼)から命を狙われる、という話です。

 ストーリーに関してはストレートで、サプライズを与えてくれるようなものではありません。
 でも、怖くて、間違いなく面白いです。

 おかしい人が包丁を持っている、っていう状況って、こんなに怖いんですね。
 幽霊とか妖怪とかそういうスーパーナチュラル系の話よりずっと。
 実現可能性が高いし。
 
 で、この怖さとリーダビリティを引っ張ってるのは、貴志祐介の筆力の高さだと思います。
 的確な描写と、過不足ない専門知識に関する説明、と言った文章力に加えて、
 納得感のある登場人物たちの行動。
 (ただ、物語最後の方に登場する”被害者になるためだけに登場するキャラクター”(ホラー作品の宿命?)が
 主人公の命を救う大きなヒントを残すところは少しだけ不自然さを感じました。)
 
 この作品はずいぶん売れたし、映画にもなったしで、今さら言う必要もないですが、傑作です。
  
 お気に入り度=☆☆☆☆☆(5点満点中)
 
 貴志祐介を知った第一作ということで、満点です。 

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男汁たっぷりなのに読後はさわやか 『太陽の塔』 感想

太陽の塔 (新潮文庫) 太陽の塔 (新潮文庫)
森見 登美彦 

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 信じられないことに読後感がとてもさわやかです。
 何でこんなに自虐的で尊大な物言いをする(しかもストーカーめいた行動をとり続ける)主人公の物語がこんなにも良い読後感を与えてくれるのかが不思議で、読み返してみました。

 基本的に些末な事に対して、大仰で冗長な描写が繰り返されるという文体なのですが(面白いのでその冗長さをイヤとは思わないのです)
 読み返してみて気づいたんですが、エンディング近くではスピード感ある文章になってるんですよね。

 主人公の心情と合わせて開けていく(?)んですね。それが気持ちがいいんだな、と。
 不覚にも?ラスト10ページくらいで少し泣いてしまいました。

 ダメな人間がウダウダ言って終わり的な、あまり好きでないタイプの小説かと思っていただけに、このさわやかな切なさには参りました。

 あと、この作品を読むと「京都」のように、文化的に厚みがある地域に住んでいる人に嫉妬してしまいますね。
 石之介は千葉が大好きで、千葉に住居を構えてるのですが、千葉は切なさが足りないですから。温暖で平べったい土地だからですかね。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆

 作家が手に入れるべきは、物語ではなく文体である、と石之介は常々思っているのです。
 そういう意味でモリミーはずっと追っていきたい作家の一人です。

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『四畳半神話大系』 感想

四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1) 四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1)
森見 登美彦 

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 森見登美彦の魅力的な文体(自意識が高くて自虐的で、でも誠実?な語り口)は「太陽の塔 (新潮文庫)」で如何なく発揮されているのですが、
 本作はさらに文体はそのままに、構成そのものが面白い作りとなっています。

 まず本作は以下の4編で存在します。

 『第一話 四畳半恋ノ邪魔者』
  主人公は大学で映画サークルに入るも、サークルの雰囲気に馴染めない話

 『第二話 四畳半自虐的代理代理戦争』
  主人公と同じ古アパートに住む「師匠」に弟子入りし、振り回される話

 『第三話 四畳半の甘い生活』
  ラブドールを誘拐したり、文通相手に妄想を抱いたりする話

 『最終話 八十日間四畳半一周』
  主人公の住む「四畳半」が別の世界の「四畳半」とつながっていて、そこからはさらに別の「四畳半」につながっていて……、という無限の「四畳半」世界から出られなくなる話

 4編は続きモノではなく、パラレルワールドとして存在しており、
 主人公は冒頭の「ある選択」により、全く別の大学生活を送ることになるのですが、
 それでも共通する出来事に関与していく、という構成です。
 (殺人事件みたいな仰々しいことが起きるわけではないですが)

 それぞれの話を単体として読んでも楽しめるレベルですし、どの話から読んでも楽しめると思います。
 特に『最終話 八十日間四畳半一周』はかなりSF色が強い設定になっていながらも、京都を忘れさせないその語りがそのSF的設定にリアリティを与えています。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆
 これはかなり良いマジックリアリズム!
 でも、男子大学生の男汁が嫌いな人はダメかも。

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ダブル受賞の実力や如何に『鼻』 感想

鼻 (角川ホラー文庫 127-1) 鼻 (角川ホラー文庫 127-1)
曽根 圭介 

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 『沈底魚』で江戸川乱歩賞を、本作『鼻』で日本ホラー小説大賞短編賞をダブル受賞した曽根圭介さんですが、本書の解説や他メディアでのインタビューなどを読むと、かなりアウトローな人のようですね。

 大学を中退したときは、「これで道をはずれた」とホッとした。それでも念のために、仕事は傾きかけたサウナの店員を選んだ。

とか言ってるくらい。(しかもその店は潰れ、その次の仕事も辞めている)

 作家や芸人は堕落しているほど良い、て四半世紀より以前のスタンダードな気もするんですけど、でもこの時代にそれを”体現”するってのは中々いや、かなり勇気が必要かと思います。

 新聞か何かの記事でご本人の写真が掲載されていたのですが、ものすごく保守的な印象を受ける外見の方だったので、驚きました。

 実は安定指向が強いため、いったん就職してしまえば定年まで勤めてしまうだろうと思ったからだ。

とも言っているので、その印象にズレはないのかもしれませんが。

 で、本書『鼻』ですが、以下の3作で構成されている短編集です。

『暴落』 個人ひとりひとりが株式市場で価格が付けられて、株価が上がったり下がったりして、主人公の『イン・タム』が右往左往する話です。
 日本人である主人公がなぜ『イン・タム』なんて名前で呼ばれているか、が気になって読み進めちゃいました。

『受難』 気を失って目が覚めたらビルとビルの間に手錠で繋がれていた、という話です。
 このシチュエーションって結構簡単に実現可能だし、実際似たような事件って存在しそうで、そう言う意味で3作品の中で一番怖いです。

『鼻』 ”テング”と呼ばれ差別される人々を、”ブタ”(一般人の呼び方)である「私」が救おうとする話です。近未来の日本を舞台にしているので、SFっぽい匂いもさせているのですが……。
 叙述ミステリと言っても良い作品です。
 各方面でえらく評価が高い作品で、確かによく出来た話なのですが、「私」と「俺」の役割の配置が、都合が良すぎるという印象を受けました。
 2人とも物語のための存在という気がして、感情移入できませんでした。
 短編ってそういうものなのかもしれないけども。

お気に入り度=☆☆☆

 3作品とも良く出来た話なのですが、なぜかあまり感情を揺さぶられませんでした。なぜだろう。
 そのうち再読するつもりなので、その際に追求してみたいと思います。