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『ISOLA – 十三番目の人格(ペルソナ)』 感想

ISOLA―十三番目の人格(ペルソナ) ISOLA―十三番目の人格(ペルソナ)
貴志 祐介 

by G-Tools

 他人の心を読む能力を持つ主人公・由香里が、多重人格を持つ少女・千尋と出会う。
 阪神大震災をきっかけに千尋の中に「磯良」という人格が生まれるのだが、由香里は「磯良」を危険な人格であると判断し、治療に臨む。
 しかし、同時期に千尋をいじめていた同級生が次々と死んでいく、という事態が発生し……というお話。

 多重人格者や心を読む能力者が出てくる話、というと、かなり手垢のついた材料で、読む前はそんなに期待していなかったのですが、なかなか楽しめました。

 楽しかった点は以下です。

 ◆漢和辞典。
 千尋の中にいるそれぞれの人格には名前がついているのですが、例えば「陽子」という名前は太陽を想起させ、明るい印象を持たせます。
 でも実は「陽」の文字には「いつわる」という意味もあり、「陽子」は狡猾な性格である。
 漢字の意味の多重性を上手く使っている設定だと思います。

 ◆多重人格者同士の会話 
 基本的に由香里は心を読む能力に関してはカミングアウトしていないので、多重人格者同士が行っている会話に関しては、一方的に聞いている状態なのです。
 だから心を読んで知ることが出来るのは人格の断片だけ。
 真実を知るにはやはり直接の対話が必要なのです。
 でも自分が「読めている」ことはバレちゃダメ、というようなこっそり感がスリリング。
 
 不満な点と言えば、由香里の性格が良すぎることに対して説明・描写がないこと。
 由香里は心を読める能力を持つため、周りの人間から気持ち悪いと思われていて、
 思春期に家族や友達に「死んでくれないかな」とか思われてるんです。
 なのに、特になんの出来事もなく、その後、素直な良い子に育ってるんですよね。
 自分だったら絶対歪むと思います。

 お気に入り度=☆☆☆(5点満点中)

 面白いですが、やっぱりこのモチーフ(多重人格者)は食傷気味かな、と思います。
 
 あと、漢和辞典が欲しくなっちゃうと思います。

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包丁こわい 『黒い家』 感想

黒い家 (角川ホラー文庫) 黒い家 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介 

by G-Tools

 
 生命保険会社に勤める主人公は、ある理由から生命保険詐欺(実は殺人鬼)から命を狙われる、という話です。

 ストーリーに関してはストレートで、サプライズを与えてくれるようなものではありません。
 でも、怖くて、間違いなく面白いです。

 おかしい人が包丁を持っている、っていう状況って、こんなに怖いんですね。
 幽霊とか妖怪とかそういうスーパーナチュラル系の話よりずっと。
 実現可能性が高いし。
 
 で、この怖さとリーダビリティを引っ張ってるのは、貴志祐介の筆力の高さだと思います。
 的確な描写と、過不足ない専門知識に関する説明、と言った文章力に加えて、
 納得感のある登場人物たちの行動。
 (ただ、物語最後の方に登場する”被害者になるためだけに登場するキャラクター”(ホラー作品の宿命?)が
 主人公の命を救う大きなヒントを残すところは少しだけ不自然さを感じました。)
 
 この作品はずいぶん売れたし、映画にもなったしで、今さら言う必要もないですが、傑作です。
  
 お気に入り度=☆☆☆☆☆(5点満点中)
 
 貴志祐介を知った第一作ということで、満点です。