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極上デスゲーム小説『クリムゾンの迷宮』 感想

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫) クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)
貴志 祐介 

by G-Tools

 石之介はデスゲームものをつい読んでしまいますが、その存在が嫌いです。
 テーマとして”死”を扱うと否が応でも緊迫感が生まれてしまいます。
 だからデスゲームものは著者に作家としての力が足りなかったとしも、ある程度面白くなってしまいます。
 そして、そこに寄りかかっている作家が存在しているという事実が嫌な理由のひとつめです。
 
 で、二つ目のデスゲーム嫌い、の理由。
 ”死”が作為的で、物語の展開として、死ぬや死なざるや、に収束されてしまう為に、読んでいてもサプライズを期待できないのです。
 でも、”死”そのものに含有される緊張につい読んでしまう。そんな読者になってしまう自分が嫌なのです。
 
 しかしながら、エンターテイメント作家の中でも高い文章力を持っている貴志祐介がデスゲームものを書いたとあっては読まないわけには行きません。
 本筋であるデスゲーム部分以外にも様々な謎解きも存在し、舞台も面白い。

  火星の迷宮へようこそ。

 って言われちゃったら、まず”ここどこなの”的興味でひっぱられちゃいます。
 読んでいる時はとても面白く、結局ワンシッティングで読んでしまいました。
 でも、本を閉じたあと、胸に去来するモノがない。なんでだろう。

 スティーブン・キングの「死のロングウォーク」を読んだ時に感じた青春っぽい切なさとかもなかったし。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)
 否定的な意見を書いてしまいましたが、初見では間違いなく面白いです。
 オススメ度で言ったら☆☆☆☆☆です。

 ちなみに石之介が考えるデスゲームものの定義を以下に示します。
 1.あるルールに乗っ取ったゲームを行い、失敗・敗北へは”死”を与えられる。(死は生物的な死のほか、社会的な死を含んでもよい。多大な借金、生活に支障をきたす肉体の一部分の喪失など)
 2.あるルールはある人物・組織によって規定されたものである。
 3.ゲームの参加者はルールおよび主催者の存在を知っている。

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パズル的群像劇『ラッシュライフ』 感想

ラッシュライフ (新潮文庫) ラッシュライフ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎  

by G-Tools

 伊坂作品は、人間と人間の距離感の描き方が良い意味でも悪い意味でも現代っ子的だと石之介は感じます。『私はこう考えますけど、あなたが別のやり方をベストと考えるのは、特に気にしません』『あなたとはあまり話したくありませんが、嫌いな訳ではありません』的な。

 人物同士の関わり方に距離感があるんですね。この感じっては石之介の世代(30才前後)くらいから下の世代にとってはリアルな距離感なんだと思っています。
 で、他への意識が薄い人間がしがちな会話、対話なのか独白なのかわからない台詞の中に伏線があったりして、という伊坂幸太郎が得意なテクニックはその空気の中で描かれているんですね。
 つまりスタイリッシュとかオシャレとか言われがちな伊坂幸太郎の文体は実は伏線を隠すのに適しているんです。
 ガッチリ構築されたトリック殺人を論理的に暴いていく、みたいなのが好きな人は嫌いな作家かもしれません。

 で、『ラッシュライフ』です。
 これは4つの物語が同時に描かれていて、それぞれのエピソードが絡み合っていくという構成になっています。
 1 泥棒の黒澤
 2 神様”高橋”を信望する塚本と河原崎
 3 お互いの配偶者を殺そうとしている京子と青山
 4 リストラされた無職の豊田。と老犬。
 この作品はそれぞれのエピソードの”解決”だけでも楽しめるのですが、他のエピソードに対してどう繋がるか、どう影響を与えているか、という部分でも楽しめるお得な作品です。
 石之介的には4の話がグッと来ちゃいます。敗北者と老犬。切なくて最高。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)