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パズル的群像劇『ラッシュライフ』 感想

ラッシュライフ (新潮文庫) ラッシュライフ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎  

by G-Tools

 伊坂作品は、人間と人間の距離感の描き方が良い意味でも悪い意味でも現代っ子的だと石之介は感じます。『私はこう考えますけど、あなたが別のやり方をベストと考えるのは、特に気にしません』『あなたとはあまり話したくありませんが、嫌いな訳ではありません』的な。

 人物同士の関わり方に距離感があるんですね。この感じっては石之介の世代(30才前後)くらいから下の世代にとってはリアルな距離感なんだと思っています。
 で、他への意識が薄い人間がしがちな会話、対話なのか独白なのかわからない台詞の中に伏線があったりして、という伊坂幸太郎が得意なテクニックはその空気の中で描かれているんですね。
 つまりスタイリッシュとかオシャレとか言われがちな伊坂幸太郎の文体は実は伏線を隠すのに適しているんです。
 ガッチリ構築されたトリック殺人を論理的に暴いていく、みたいなのが好きな人は嫌いな作家かもしれません。

 で、『ラッシュライフ』です。
 これは4つの物語が同時に描かれていて、それぞれのエピソードが絡み合っていくという構成になっています。
 1 泥棒の黒澤
 2 神様”高橋”を信望する塚本と河原崎
 3 お互いの配偶者を殺そうとしている京子と青山
 4 リストラされた無職の豊田。と老犬。
 この作品はそれぞれのエピソードの”解決”だけでも楽しめるのですが、他のエピソードに対してどう繋がるか、どう影響を与えているか、という部分でも楽しめるお得な作品です。
 石之介的には4の話がグッと来ちゃいます。敗北者と老犬。切なくて最高。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)