0

スタイリッシュな救い 『チルドレン』 感想

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) チルドレン (講談社文庫 (い111-1))
伊坂 幸太郎

by G-Tools

「自らの価値観にのみ従った行動をしているのに、結果的にその行動によって他人が救われている」という行動様式を持つキャラクターが登場するのが、伊坂作品の特徴だと石之介は考えています。

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)』の”河崎”や『ラッシュライフ (新潮文庫)』の”黒澤”などがそうです。
 本作の主人公である”陣内”もそのひとりだと思います。

 彼らはなぜか饒舌で対話者をケムに巻きながらも、その実、”答え”を語っている。
 ”答え”しか言わないから、意図がわからない。そのそも意図を伝える気がない。
 そして行動によって意図を伝える。
 そんな人たちなんです。

 実際こんな人たちがいたら、カッコいいな、と一瞬思ったけども、現実社会ではやっぱり語られた言葉しか他人には通じないから
行動だけで意図を示すってのは難しいと思うんですよね。

 とはいえ、伊坂作品には非リアリズムの部分に快感が潜んでいる(カカシ、とかね)ので、「リアリティがない」という批判は本末転倒だとは思いますが。

 で、『チルドレン』です。
 本作は5つの短編から構成されている物語です。

「バンク」
主人公”陣内”、その友人”鴨居”、盲目の男”永瀬”が銀行強盗に巻き込まれ、人質にされる。でもこの事件はなにかおかしいぞ……、という話。

「チルドレン」
12年後。家裁調査官になっている”陣内”とその後輩”武藤”が、万引き高校生”志朗”の指導にあたるが、”志朗”とその父親の関係に違和感を感じる、という話

「レトリーバー」
家裁調査官を目指して勉強中の”陣内”と”永瀬”、とその恋人”優子”が高架歩道で会話していると、周りにいる人々のようすがおかしい。一見無関係の人々がすわっているベンチから長時間動こうとしない。「世界は止まった」と”陣内”は言うが……。

「チルドレン2」
家裁調査官になっている”陣内”とその後輩”武藤”が、”アキラ”の指導にあたる。また同時に”大和”家の離婚調停も行う。予定調和的だけど、カッコいい話。

「イン」
公園のベンチに座る”永瀬”。そこに通りかかった”陣内”が話しかけてくるが、なにやら周囲と”陣内”の様子がおかしい。何が起きているのか?という話。

 それぞれは独立しているのですが、その中で共通して出てくるエピソードが”陣内”とその父親との関係。

 ”陣内”は彼の父親と仲が悪いのです。で、
 その関係をどうやって”解決”したか、というエピソードが各短編にちょこちょこっと出て来ます。

 5つの短編は時系列ではないので、「結局どうなったか」は早々に明かされるのですが、「どうやってそれを為したか」は最後に明かされたりして、このエピソードだけ追っても楽しい話です。

 あと、”永瀬”というキャラクターもちょっとカッコいいんですよね。
 目が見えない男なのですが、「目が見えない自分に対する世間」に対してすでに達観している感じと、その”永瀬”に対して無遠慮な”陣内”。
 
「おい、それは、本気で言ってるのか」
「盲目の男が言うと、本当っぽいだろ」

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)

0

パズル的群像劇『ラッシュライフ』 感想

ラッシュライフ (新潮文庫) ラッシュライフ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎  

by G-Tools

 伊坂作品は、人間と人間の距離感の描き方が良い意味でも悪い意味でも現代っ子的だと石之介は感じます。『私はこう考えますけど、あなたが別のやり方をベストと考えるのは、特に気にしません』『あなたとはあまり話したくありませんが、嫌いな訳ではありません』的な。

 人物同士の関わり方に距離感があるんですね。この感じっては石之介の世代(30才前後)くらいから下の世代にとってはリアルな距離感なんだと思っています。
 で、他への意識が薄い人間がしがちな会話、対話なのか独白なのかわからない台詞の中に伏線があったりして、という伊坂幸太郎が得意なテクニックはその空気の中で描かれているんですね。
 つまりスタイリッシュとかオシャレとか言われがちな伊坂幸太郎の文体は実は伏線を隠すのに適しているんです。
 ガッチリ構築されたトリック殺人を論理的に暴いていく、みたいなのが好きな人は嫌いな作家かもしれません。

 で、『ラッシュライフ』です。
 これは4つの物語が同時に描かれていて、それぞれのエピソードが絡み合っていくという構成になっています。
 1 泥棒の黒澤
 2 神様”高橋”を信望する塚本と河原崎
 3 お互いの配偶者を殺そうとしている京子と青山
 4 リストラされた無職の豊田。と老犬。
 この作品はそれぞれのエピソードの”解決”だけでも楽しめるのですが、他のエピソードに対してどう繋がるか、どう影響を与えているか、という部分でも楽しめるお得な作品です。
 石之介的には4の話がグッと来ちゃいます。敗北者と老犬。切なくて最高。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)