男汁たっぷりなのに読後はさわやか 『太陽の塔』 感想

太陽の塔 (新潮文庫) 太陽の塔 (新潮文庫)
森見 登美彦 

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 信じられないことに読後感がとてもさわやかです。
 何でこんなに自虐的で尊大な物言いをする(しかもストーカーめいた行動をとり続ける)主人公の物語がこんなにも良い読後感を与えてくれるのかが不思議で、読み返してみました。

 基本的に些末な事に対して、大仰で冗長な描写が繰り返されるという文体なのですが(面白いのでその冗長さをイヤとは思わないのです)
 読み返してみて気づいたんですが、エンディング近くではスピード感ある文章になってるんですよね。

 主人公の心情と合わせて開けていく(?)んですね。それが気持ちがいいんだな、と。
 不覚にも?ラスト10ページくらいで少し泣いてしまいました。

 ダメな人間がウダウダ言って終わり的な、あまり好きでないタイプの小説かと思っていただけに、このさわやかな切なさには参りました。

 あと、この作品を読むと「京都」のように、文化的に厚みがある地域に住んでいる人に嫉妬してしまいますね。
 石之介は千葉が大好きで、千葉に住居を構えてるのですが、千葉は切なさが足りないですから。温暖で平べったい土地だからですかね。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆

 作家が手に入れるべきは、物語ではなく文体である、と石之介は常々思っているのです。
 そういう意味でモリミーはずっと追っていきたい作家の一人です。

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