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男汁たっぷりなのに読後はさわやか 『太陽の塔』 感想

太陽の塔 (新潮文庫) 太陽の塔 (新潮文庫)
森見 登美彦 

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 信じられないことに読後感がとてもさわやかです。
 何でこんなに自虐的で尊大な物言いをする(しかもストーカーめいた行動をとり続ける)主人公の物語がこんなにも良い読後感を与えてくれるのかが不思議で、読み返してみました。

 基本的に些末な事に対して、大仰で冗長な描写が繰り返されるという文体なのですが(面白いのでその冗長さをイヤとは思わないのです)
 読み返してみて気づいたんですが、エンディング近くではスピード感ある文章になってるんですよね。

 主人公の心情と合わせて開けていく(?)んですね。それが気持ちがいいんだな、と。
 不覚にも?ラスト10ページくらいで少し泣いてしまいました。

 ダメな人間がウダウダ言って終わり的な、あまり好きでないタイプの小説かと思っていただけに、このさわやかな切なさには参りました。

 あと、この作品を読むと「京都」のように、文化的に厚みがある地域に住んでいる人に嫉妬してしまいますね。
 石之介は千葉が大好きで、千葉に住居を構えてるのですが、千葉は切なさが足りないですから。温暖で平べったい土地だからですかね。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆

 作家が手に入れるべきは、物語ではなく文体である、と石之介は常々思っているのです。
 そういう意味でモリミーはずっと追っていきたい作家の一人です。

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『四畳半神話大系』 感想

四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1) 四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1)
森見 登美彦 

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 森見登美彦の魅力的な文体(自意識が高くて自虐的で、でも誠実?な語り口)は「太陽の塔 (新潮文庫)」で如何なく発揮されているのですが、
 本作はさらに文体はそのままに、構成そのものが面白い作りとなっています。

 まず本作は以下の4編で存在します。

 『第一話 四畳半恋ノ邪魔者』
  主人公は大学で映画サークルに入るも、サークルの雰囲気に馴染めない話

 『第二話 四畳半自虐的代理代理戦争』
  主人公と同じ古アパートに住む「師匠」に弟子入りし、振り回される話

 『第三話 四畳半の甘い生活』
  ラブドールを誘拐したり、文通相手に妄想を抱いたりする話

 『最終話 八十日間四畳半一周』
  主人公の住む「四畳半」が別の世界の「四畳半」とつながっていて、そこからはさらに別の「四畳半」につながっていて……、という無限の「四畳半」世界から出られなくなる話

 4編は続きモノではなく、パラレルワールドとして存在しており、
 主人公は冒頭の「ある選択」により、全く別の大学生活を送ることになるのですが、
 それでも共通する出来事に関与していく、という構成です。
 (殺人事件みたいな仰々しいことが起きるわけではないですが)

 それぞれの話を単体として読んでも楽しめるレベルですし、どの話から読んでも楽しめると思います。
 特に『最終話 八十日間四畳半一周』はかなりSF色が強い設定になっていながらも、京都を忘れさせないその語りがそのSF的設定にリアリティを与えています。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆
 これはかなり良いマジックリアリズム!
 でも、男子大学生の男汁が嫌いな人はダメかも。