サウンドトラック 古川 日出男 集英社 2003-09by G-Tools |
古川日出男の文章をどうしても読みたくなってしまうことがあります。
そんなわけで、古川節をたっぷり味わえそうなこの作品をチョイス。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
2009年、ヒートアイランド化した東京。神楽坂にはアザーンが流れ、西荻窪ではガイコクジン排斥の嵐が吹き荒れていた。破壊者として、解放者として、あるいは救済者として、生き残る少年/少女たち。これは真実か夢か。『アラビアの夜の種族』の著者が放つ、衝撃の21世紀型青春小説。
大変書評が書きづらい作品です。
物語というのは性質上、ばらまかれた状況を収束するものですが、この作品は点がいっこうに線になっていかないのです。
でも、古川日出男の文章にしびれちゃってるんで、最後まで読み切らされました。
まず冒頭。
無人島に放り出された幼いトウタとヒツジコ。
幼い弱々しい生命という存在に不安を覚えてしまうけども、生き延びる二人にホッと安心。
ルーツと言葉をなくしている(つまり社会的に人間でない)二人がどんな風に物語を紡いでいくのかと期待してしまいます。
でも、東京編に入ってからは、二人がどうなるのか、どうしたいのかが全然わかりません。
(無目的であることを描いているのかもしれませんし、不可解でありながらも面白いことをしていたりするのですが)
最終的にもトウタとヒツジコの物語は収束していきませんでした。
あれほど運命的な冒頭だったのに。
と、まあ批判的なことを書いてしまいましたが、それでもこの作品は面白かったです。
なにしろ第三の主人公とも言えるレニが良いです。
正確にはレニのまわりにいるキャラクターがすごく好き。
人語を解するカラス・クロイ。
カラスなのに、映画を見るし、人を助けるし、家族愛を感じるし、そして最後には神になる。
あと、個人的に本作品で一番好きな、レニの映画の師匠・居貫。
カラスに対して、真剣にサイレント映画を見せる巨体の男。
で、性別を持たない存在・レニ。
少女にも少年にもなれる存在。
まあ、このレニとクロイと居貫が、侵入した体育館でサイレント映画を見るシーンなんか想像するだけで、わくわくしちゃいます。
レニ編だけで良いから、だれかオシャレ映画撮ってくれないかな。絶対見に行きます。
他にも魅力的なキャラクターがたくさんいます。
トウタ編に出てくる神殿の女神・ピアス。
ヒツジコ編に出てくる「免疫体」の3人。
自分の妄執のためにヒツジコのお母さんになるうずめ。
など、それぞれのキャラクターごとにひとつの作品が描けるんじゃないかと思うくらい、特徴的なキャラクターたち。
魅力的な文体とキャラクターさえあれば、「ストーリーを追う」必要はないのかな、とか考えさせられました。
ところで、東京+熱帯(+破壊)と言えば、池上 永一 『シャングリラ』を思い出してしまいましたね。
あれも破綻している部分はあるのにパワーを保持している面白い作品でした。
お気に入り度=☆☆☆☆
機会があれば、もう一回読みます。
時間とエネルギーのある時に。
その時は五つ星をつけてしまうような気がします。