この世界にもっと浸らせて欲しい。 『雷の季節の終わりに』 感想

4048737414 雷の季節の終わりに
恒川 光太郎
角川書店 2006-11

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 第12回ホラー小説大賞において『夜市 (角川ホラー文庫)』でセンセーショナルなデビューを飾った恒川光太郎さんの二作目です。

 恒川光太郎作品は、日本人の記憶の中にある風景を思わせる独特の世界が舞台であることが多いのですが、本作も同様です。

 本作で舞台になるのは「穏(オン)」という伝統ある田舎町の風合いを持つ土地です。
 「穏」で育てられた賢也は、ある日秘密を知り、それを知ったが為「穏」を出て行かなければならない状況に陥る。
 そして、外の世界では新たな戦いが始まる。
 という話です。

 凡庸な物語になる危険性を含む設定が多いのにも関わらず、そうならないのは表現力が優れているからかと。 
 文章は相変わらず流麗。
 書き込みすぎず、ちょうど想像力を膨らませるのにベストな状態に抑制されているという感じです。
 リズム感や語感が卓越しているのだと思います。

 でも、物語的には少し物足りなさを感じてしまいました。

『夜市』では、後半の展開で見せた構成力によってすばらしい物語が展開されました。
 本作でももちろん同様の驚きを期待するところです。
 ですが、前半部で提示された数々の謎や伏線、それらがどう回収されるのかワクワクして読み進めましたが、残念ながら期待を膨らませすぎていたようです。
 ひとつひとつが物足りない。

 リーダビリティが高いことの代償なのかもしれません。
 この倍くらいのボリュームで書き込んで欲しかったです。
 特に”ナギヒサ”や”トバムネキ”に関しては、物足りなさ過ぎます。
 せっかくナイスな悪者なのに。
 
 お気に入り度=☆☆☆☆

「穏」「風わいわい」といった造語に代表される言語感覚がすばらしいのは言うまでもありません。
 だからこそ量的に足りない!もっと味わせて欲しかった!

 でも、面白いか面白くないか、と言われると面白かったです。

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