凍りのくじら (講談社文庫) 辻村 深月 講談社 2008-11-14 by G-Tools |
辻村深月さんの著作は、惹かれるタイトルの作品が多いので気になっていました。
ということで本作『凍りのくじら』を手にしてみました。
正直、読み始めは、主人公・理帆子の性格が鼻に付いてしまって、読むのがキツかったです。
表面上は周りの人たちとうまくやっているのですが、その人たちを少し見下しているんですね。(あからさまではないんですが、そのあからさまではないのが逆にすごく鼻に付くんです)
私だけは本質に気付いている。みたいなそんな態度。
でも、途中から様子が変わってきました。
理帆子の元彼・若尾の登場です。
若尾が登場してからは俄然おもしろくなってきました。
若尾はホントダメなヤツなんです。
プライドは高いし、元彼女(理帆子)に依存するし。司法試験を受けるとか言いながら勉強してる様子はないし。
で、全てのイヤなことは周りのせいにする。
なんて共感できるヤツなんだ!
まるで、自分の若き日の痛々しさを見てるようです。
でも、理帆子は若尾とすでに別れているにも関わらず、交流を持ち続けちゃうんですね。
まだ好きだから、という理由ではなく、若尾がダメになって行くのを見たいから、なんて理由で。
結局、理帆子自身もそんな自分のイヤな部分に気づいていて、だからこそ若尾との関係を完全に切ることができなかった。
それがある不幸を呼び込んでしまう、と。
文章に関しては少々冗長なところがあるのですが、(「別所」の描写なんか”嫌みのない””とらえどころのない”ばっかりです。)丹念に心情が書き込まれているので、理帆子の心の揺らぎと成長が感じ取れて、これはこれでいいのかな、と。
最終的には鼻に付く感じもなくなって、読後感は晴れやかですしね。
お気に入り度=☆☆☆+α
プロローグは正直言って、必要なかったと思うんですよ。
(プロローグでは、物語のその後が描写されています)
せっかく緊張感のある物語展開なのに、このプロローグがあるせいかハッピーエンドに着地することがわかってしまう。
※ハッピーエンドは好きなのですが、「もしかしてバッドエンドもありえるかも」とドキドキさせて欲しいのです。
また、エピローグが大変美しかったので、その後がどうなったかは読者の想像に委ねて欲しかった。
そういった部分で、「惜しい」といった印象が拭えませんでした。