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ダブル受賞の実力や如何に『鼻』 感想

鼻 (角川ホラー文庫 127-1) 鼻 (角川ホラー文庫 127-1)
曽根 圭介 

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 『沈底魚』で江戸川乱歩賞を、本作『鼻』で日本ホラー小説大賞短編賞をダブル受賞した曽根圭介さんですが、本書の解説や他メディアでのインタビューなどを読むと、かなりアウトローな人のようですね。

 大学を中退したときは、「これで道をはずれた」とホッとした。それでも念のために、仕事は傾きかけたサウナの店員を選んだ。

とか言ってるくらい。(しかもその店は潰れ、その次の仕事も辞めている)

 作家や芸人は堕落しているほど良い、て四半世紀より以前のスタンダードな気もするんですけど、でもこの時代にそれを”体現”するってのは中々いや、かなり勇気が必要かと思います。

 新聞か何かの記事でご本人の写真が掲載されていたのですが、ものすごく保守的な印象を受ける外見の方だったので、驚きました。

 実は安定指向が強いため、いったん就職してしまえば定年まで勤めてしまうだろうと思ったからだ。

とも言っているので、その印象にズレはないのかもしれませんが。

 で、本書『鼻』ですが、以下の3作で構成されている短編集です。

『暴落』 個人ひとりひとりが株式市場で価格が付けられて、株価が上がったり下がったりして、主人公の『イン・タム』が右往左往する話です。
 日本人である主人公がなぜ『イン・タム』なんて名前で呼ばれているか、が気になって読み進めちゃいました。

『受難』 気を失って目が覚めたらビルとビルの間に手錠で繋がれていた、という話です。
 このシチュエーションって結構簡単に実現可能だし、実際似たような事件って存在しそうで、そう言う意味で3作品の中で一番怖いです。

『鼻』 ”テング”と呼ばれ差別される人々を、”ブタ”(一般人の呼び方)である「私」が救おうとする話です。近未来の日本を舞台にしているので、SFっぽい匂いもさせているのですが……。
 叙述ミステリと言っても良い作品です。
 各方面でえらく評価が高い作品で、確かによく出来た話なのですが、「私」と「俺」の役割の配置が、都合が良すぎるという印象を受けました。
 2人とも物語のための存在という気がして、感情移入できませんでした。
 短編ってそういうものなのかもしれないけども。

お気に入り度=☆☆☆

 3作品とも良く出来た話なのですが、なぜかあまり感情を揺さぶられませんでした。なぜだろう。
 そのうち再読するつもりなので、その際に追求してみたいと思います。