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春樹リミックス 『二〇〇二年のスロウ・ボート』 感想

二〇〇二年のスロウ・ボート (文春文庫 (ふ25-1))
古川日出男

 タイトルからも分かるのですが、本書は村上春樹著「中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)」を題材にしています。
 そのことは古川日出男本人が”解題”(”あとがき”ではなく、著者自らが解説しています)の中に書いています。

 古川日出男は作品ごとに文体を変えてくる人っていうイメージだったんですが、やっぱり根底にあるのは村上春樹&周辺カルチャーの文法だと思います。
 ”誤読”とか、村上春樹を想起させる言葉も出ますし、段落の終わりの一文が短い言葉で締めくくられていたり。

 とか言ってますけど、石之介は村上春樹をあまり読み込んでいない人間なので、この『二〇〇二年のスロウ・ボート』という作品をヘビーハルキストたちがどう読むか、というところに興味があります。誰かに熱く語られたいです。

 本書は、”僕”が出会って別れた3人の女の子について語るボーイミーツガールものですが、それぞれの場面に自らの体験を思い出させられることも多かったです。
(モリミー(森見 登美彦)作品を読むと自らの学生生活を思い出す、という話はよく聞く話ですが、『二〇〇二年のスロウ・ボート』でも同様に既視感を覚えることが出来ると思います。角度はまったく違いますけど)

 2人目の女の子に、裏切られながらも追う、でも追いきれない、みたいなシチュエーションの切なさは、誰しも体験してるかと思います。
 3人目の夢が破れると恋もやぶれる、というシチュエーションも切なくて良いですね。”社会人”になってしまうと、お金さえあれば良い、みたいな方にどうしても傾いてしまいますからね(泣きたくなってきた)。

 また、本書を読んでいる最中、石之介にごく個人的な奇跡(?)がありました。

 132ページの5行目。以下の部分に差し掛かった時。
 
 いたる。新木場駅だった。JR京葉線と地下鉄有楽町線が僕を誘いこもうと改札口(トラップ)を用意していた。

 この場面を読んでいた瞬間に石之介が乗っていた京葉線が新木場駅に着きました!
 どうでもいいですね。すいません。

 お気に入り度=☆☆☆☆(5点満点中)

 また読み返したい魅力があります。今回は4点。再読時は5点かも。