古川日出男のリズムを抽出。 『僕たちは歩かない』 感想

404873735X 僕たちは歩かない
古川 日出男
角川書店 2006-12

by G-Tools

 この感想にはネタバレを含みますが、本作は薄いし(本当に薄い)サプライズもないので、特に問題ないと思います。
 30分くらいで読めちゃうほど薄いです。

 古川日出男の作品は、独特なリズムから成る文体/多様なサブストーリー/豊富な語彙、などを楽しむことが出来ますが、この作品に関してはリズムの気持ちよさを抽出した作品だと思います。

 物語は、シェフを志す若者たちが、26時間制の世界に紛れ込むところから始まります。
 そこで料理の腕を磨きあう若いシェフたち。
 しかし、仲間の一人であるホリミナという女の子が突然、亡くなってしまう。
 ホリミナを連れ戻すために冥界に行く、というお話です。

 やっぱり死んだ女性を冥界から連れ戻しに行く、というのは古事記に出てくるイザナミ・イザナギの黄泉の国のお話をモチーフにしていると思いますが、そういう意味では冥界でホリミナの姿が見えないのは救いでした。
 古事記のイザナミは雷と蛆虫にまとわりつかれたおぞましい姿で出てくるので、もしかしてホリミナもとんでもないことになるんじゃないか、と思ってたんですがそうはならずに安心しました。
 イザナミとホリミナが違うのは、生き返ろうとしたか、しないか。
 イザナミは生き返ろうとして、醜い姿を現してしまった。
 ホリミナは死を受け入れた。だから醜い姿をさらすことはなかった。ということなのかもしれません。

 この作品で特に好きな部分は、冥界のイメージが美しいところです。
 大雪。東京にある断崖。
 駅のホームに置かれた錆びた鉄で出来ている巨大な鳥かご。

 薄くてサラッと読めちゃう本ですが、リズムとイメージに身をまかせてサラッと読んじゃうのが正しい読み方だと思います。

 お気に入り度=☆☆☆☆

 ちょっと軽くヒデオを読みたいぜ、って時にベストです(笑)。

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