世界は閉じている。 『わたしを離さないで』 感想

4151200517 わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)
土屋政雄
早川書房 2008-08-22

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 タイトルからはロマンティシズムばっかりのメソメソした作品なのかと想像してたのですが、全然違いました。すいません。

 ある「謎」について触れずに紹介するのは困難なので、あらすじは書きませんが、「謎」を知ってしまったからと言って読む楽しみが減ってしまうということはないくらい、作品世界は見事に構築されています。

 この作品を読むと、「自分という存在からは逃げられない」という、とても当たり前の事実を突きつけられます。
 逃げようとしても逃げられない、のではなく、自分と世界の関係性もすべて自分にフィードバックされてます、ということです。
  
 また、この作品で非常に面白いと思ったのが、主人公が感じ取っているであろう世界が、広がろうとしない、という部分です。
 
 「私はこの世界を子供時代のメタファーにしたかったのです。」とカズオ・イシグロ本人が語っているように、幼少の頃の「自分が見えてる世界=世界の全て」という状況を切実に感じさせてくれます。
 
 ということで、主人公はその苛烈な運命を、完全に受け入れてるのかな、と思っていたのですが、ラスト直前、主人公の 『わたしは一度だけ自分に空想を許しました。』という記述があります。

 もしかしたら、意識的に空想することを抑えてるのかも?

 自分が置かれている状況を「外界」からの視点で想像してしまったら、「かわいそうな子たち」(@マダム)であるのは分かっている。
 そいういうことを想像しないようにしているのかもしれません。
 いや、それこそ悲しすぎます。

 作品の中では保護官(主人公世界から見た場合「外部」)の視点から語られることは少ないので、保護官に感情移入しなかったですが、読後にちょっと保護官の視点で考えてみたら、ちょっと凹みました。

 お気に入り度=☆☆☆☆☆

 お気に入り、というか、読む前と読んだ後は世界の見え方が変わるレベルの作品だと思います。

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